中国越境ECの物流戦略|保税区モデルと直送モデルの比較とコスト削減のポイント
中国の巨大な消費市場は、日本の事業者にとって非常に魅力的です。特に越境ECは、中国の消費者に日本の高品質な商品を届ける有効な手段として注目されています。しかし、越境ECの成功には、適切な物流戦略が不可欠です。本記事では、中国向け越境ECにおける主要な物流モデルである「保税区モデル」と「直送モデル」を比較し、それぞれのメリット・デメリット、さらにコスト削減のポイントについて詳しく解説します。
中国越境ECにおける主要な物流モデル:保税区モデルと直送モデル
中国向け越境ECで利用される代表的な物流モデルには、主に「保税区モデル」と「直送モデル」の2つがあります。これらのモデルは、商品の保管場所、通関手続き、配送リードタイム、コスト構造などが大きく異なります。自社の商材や販売戦略、ターゲット顧客層などを考慮し、最適な物流モデルを選択することが重要です。
- 保税区モデル: 事前に商品を日本の港から中国国内の保税区へ輸送し、保税倉庫で保管します。中国の消費者から注文が入ると、保税区から通関手続きを行い、中国国内の消費者へ配送する方式です。
- 直送モデル: 中国の消費者から注文が入った後、日本の倉庫から国際郵便や国際宅配便を利用して、直接中国の消費者へ商品を発送する方式です。
それぞれのモデルには一長一短があり、事業の規模や取り扱う商品の特性によって向き不向きがあります。次の章で、各モデルの詳細について見ていきましょう。
保税区モデル徹底解説:メリット・デメリットと適したケース
保税区モデルは、中国国内の保税地域に商品をストックしておくことで、注文後のリードタイム短縮や物流コストの削減が期待できる手法です。
メリット:
- 配送リードタイムの短縮: 商品が既に中国国内にあるため、注文から配送までの時間を大幅に短縮できます。これにより、顧客満足度の向上が期待できます。
- 物流コストの削減(大量輸送の場合): 一度にまとまった量の商品を保税区へ輸送するため、一点あたりの国際送料を抑えることができます。また、中国国内の安価な配送サービスを利用できる場合もあります。
- 通関手続きの効率化: 保税区での通関は、直送モデルに比べて簡素化・迅速化されている場合があります。また、関税や増値税(VAT)が、個人輸入の扱いとなる「越境EC総合税」として一本化され、税率が優遇されるケースがあります。
- 返品対応の円滑化: 中国国内に在庫拠点があるため、返品処理が比較的スムーズに行えます。
デメリット:
- 在庫リスク: 事前に商品を中国へ送るため、売れ残った場合の在庫リスクや保管コストが発生します。特に賞味期限の短い商品や流行り廃りの激しい商品には注意が必要です。
- 初期費用・固定費: 保税倉庫の利用料やシステム連携費用など、初期費用や固定費がかかる場合があります。
- 対象品目の制限: 保税区モデルを利用できる商品には一定の制限(ネガティブリスト)があり、すべての商品が対象となるわけではありません。
- 柔軟性の低下: 特定の保税区に在庫を置くため、販売チャネルの変更や新たな保税区への移転などが煩雑になる可能性があります。
適したケース:
- ある程度の販売量が見込める人気商品や定番商品
- リードタイムの短縮を重視する事業者
- 化粧品やベビー用品など、特定の人気カテゴリーの商品
- ブランディングを重視し、安定した供給体制を築きたい事業者
直送モデル徹底解説:メリット・デメリットと適したケース
直送モデルは、日本国内の倉庫から注文の都度、個別に商品を発送する方法です。小規模から始めたい事業者や、多品種少量販売の事業者に適しています。
メリット:
- 在庫リスクの低減: 日本国内で在庫を管理するため、中国での売れ残りリスクを回避できます。注文が入ってから発送するため、無駄な在庫を抱える必要がありません。
- 初期費用・固定費の抑制: 保税倉庫の利用料などがかからず、比較的低コストで開始できます。
- 幅広い商品に対応可能: 保税区モデルのような厳格な品目制限が比較的少ないため、多様な商品を取り扱うことができます。
- 柔軟な対応: テスト販売や限定商品の販売など、柔軟な販売戦略に対応しやすいです。
デメリット:
- 配送リードタイムの長期化: 国際配送となるため、注文から商品到着までに時間がかかります。一般的に7日~2週間程度、場合によってはそれ以上かかることもあります。
- 一点あたりの物流コストの割高感: 個別に発送するため、一点あたりの国際送料が高くなる傾向があります。
- 通関手続きの煩雑さ: 配送ごとに通関手続きが必要となり、関税や増値税の計算・支払いが発生します。購入者負担となる場合、手続きの案内やサポートが必要になることもあります。
- 返品対応の困難さ: 国際返品となるため、手続きが煩雑でコストも高くなりがちです。
適したケース:
- 越境ECを始めたばかりの事業者や小規模事業者
- 多品種少量の商品を取り扱う事業者
- ニッチな商品や高付加価値商品で、リードタイムよりも品揃えを重視する事業者
- テストマーケティングを行いたい事業者
中国越境ECのコスト削減と効率化を実現するポイント
どちらの物流モデルを選択するにしても、コスト削減と効率化は重要な課題です。以下に、そのためのポイントをいくつか挙げます。
- 信頼できる物流パートナーの選定: 中国向け物流に豊富な経験と実績を持つフォワーダーや物流業者を選定することが非常に重要です。通関手続きのスムーズさ、現地での配送ネットワーク、トラブル対応能力などを総合的に比較検討しましょう。複数の業者から見積もりを取り、サービス内容とコストを比較することが大切です。
- 梱包の最適化: 商品の安全性を確保しつつ、容積重量を抑えることで送料を削減できます。過剰な梱包を避け、軽量で丈夫な梱包材を選びましょう。
- 関税・増値税の理解と対策: 中国の関税制度や増値税について正しく理解し、適用される税率や免税枠などを把握しておくことが重要です。保税区モデルを利用する場合は、越境EC総合税の優遇措置を最大限に活用しましょう。
- ITシステムの活用: 受注管理システム(OMS)や倉庫管理システム(WMS)を導入し、物流プロセスを自動化・効率化することで、人件費の削減やヒューマンエラーの防止につながります。
- 最新情報の収集: 中国の越境ECに関する政策や規制は頻繁に変更されるため、常に最新情報を収集し、適切に対応していく必要があります。JETRO(日本貿易振興機構)や中小機構などの公的機関が提供する情報や、物流業者が発信する情報を参考にしましょう。
- 少量からのテスト導入: 最初から大規模に展開するのではなく、まずは少量の商品でテスト的に物流モデルを導入し、問題点や改善点を洗い出すことも有効です。
まとめ:自社に最適な物流戦略で中国市場を攻略
中国越境ECにおける物流は、単に商品を届けるだけでなく、顧客満足度やコスト競争力、ひいては事業の成否を左右する重要な要素です。保税区モデルと直送モデル、それぞれの特性を深く理解し、自社の事業規模、取扱商品、販売戦略、そして最も重要な顧客のニーズを踏まえて、最適な物流戦略を構築することが成功への鍵となります。
本記事で解説したポイントを参考に、信頼できるパートナーを見つけ、変化の速い中国市場の動向を注視しながら、柔軟かつ効果的な物流体制を築き上げてください。適切な物流戦略は、貴社の中国越境ECビジネスを大きく飛躍させる力となるでしょう。